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空耳の丘 - 1988.10.21/29位
【収録曲】
01.空耳の丘
02.窓を開けた時
03.風の吹く丘
04.旅人
05.星屑の停留所 (プラッツ)
06.川
07.地図をください
08.日曜日
09.ひまわり [Napraforgo]
10.夢のひと
11.Run in the rain
12.空耳の丘 (Reprise)

「これから我がソラミミ楽団の演奏を始めます。どうか耳をすましてください。そして思い出してください。星を眺めていた頃のこと、とっても好きだったあの頃のことを――。(以下略)」
88年10月発売、遊佐未森の2ndアルバム「空耳の丘」は、その後「ハルモニオデオン」「HOPE」と連なる所謂「空耳三部作」の第一弾であり、いずれのアルバムにも彼女のサウンドプロデューサーである外間隆史氏による短編小説がブックレットに掲載されていて、これがそのまま作品全体の世界観(三枚全て共通している)の説明となっている。主人公は円里至(まどかり いたる)という男性で、その妻は千鳥(ちどり)、物語の第一章である本作では、ある朝「ソラミミ楽団」なる者から謎の招待状が届けられ、疑心を抱きながらも詩人仲間らを引き連れて「地図」に示された「丘」に出向き、「ソラミミ楽団」による風や雷雨、木の葉のさざめきなどを楽器としたアンサンブルを楽しむ、という内容。

――っと、ここまで書けば分かるようにこの物語、明らかにあってもなくてもいいような代物であります。まず主人公の名前がマドカリイタルっつうのは何だよとか、そもそも舞台が架空の世界であるのはいいとして、それが果たして日本的なのかそれとも西洋的なのかすらも分かんないし、後はソラミミ楽団から招待状貰った一行がまるでカルト信者のようだったり、色々突っ込みどころはあるんだけど(主に外間先生に)、その必要すらもなさげな、ひとつの物語としてはもちろん、アルバムの世界観に華を添えるライナーノーツ的なものとして読んでも、どうも微妙すぎて困る。

とは言え今日になって振り返るとこれ、割と意味のあることだったのかなあ、という気がします。
アイドル黄金時代と呼ばれた80年代――しかし実際にアイドルが輝いていたのは84年頃までで、85年以降は明らかにアイドルポップスは衰退の途を辿っていくことになる。そして平成を目前に控えた88年、ますますアイドルポップスは斜陽産業となり、代わりにそれまでアイドルが担っていた「若者のための音楽」という役割を引き継いだのが、レベッカやBOØWY、TMネットワークやプリプリなどに代表されるバンドブームの立役者、それまで「アイドルポップス」と呼ばれていたものが変容した「ガールズポップ」の女性シンガー、そして平成一ケタ代にブームとなった渋谷系、アイドル声優などに代表される所謂「サブカル系」のアーティスト達だったわけで。
つまりは80年にデビューし、アイドル黄金時代の象徴的存在となった松田聖子を生み出したソニーレコードが、彼女の役割を継承すべく新世代のスターとして先述のレベッカやTMネットワーク、「アーティスト風アイドル」なガールズポップの先駆けである渡辺美里らを送り出す一方で、そうしたメインストリームから漏れてしまうリスナー層――サブカルマニア、所謂オタクと呼ばれる人たち、に訴求するべく放たれた存在、それが遊佐未森であったと。ちょっと強引だけどそういう解釈が出来るんじゃないかなって話。

だとしたらこの明らかに意味のない、しかし「メルヘン」とか「ファンタジー」みたいな、虚構の世界を題材とした物語――要するにアニメとか漫画とか、を歌い紡ぐストーリーテラー的な(=後のアニソン、声優系シンガー)、これまでに存在していた歌手とは一線を画す部分をアピールするべく、という戦略の一環だったとしたら実に納得がいく――ってのは自分が勝手に思ってるだけなんですが。しかし結局は90年代半ばのエヴァブームを経て、アイドル声優やアニソン系シンガーの音楽はサブカル、邦ポップス界において極めて重要かつ巨大なジャンルに成長したわけで、その源流を辿るとリン・ミンメイの飯島真理、新居昭乃、菅野よう子、そして遊佐未森に行き着くのである。ってのは、考えすぎ?的外れ?どうでしょうか。

そんな感じで、いずれにせよ遊佐未森が当時の迷えるサブカルオタクらに多大な影響を与えたってのは間違いないと思うんだけど、その割に今日そんな大物感がしないってのも不思議な話ですね(失礼)。
確かに彼女の場合、レコード会社の思惑や素質とは裏腹に、あまり分かりやすいサブカル方面――要するにアニソン、には舵取りしなかったようで、結局ブレイクのきっかけとなったこのアルバムの収録曲「地図をください」も日清カップヌードルCMソングだし、その後のタイアップもオッペン化粧品とか、花王のシャンプーとか、スズキとか、カルビーのポテチとかで、最終的にはNHK「みんなのうた」になってしまうわけで(――しかし最大ヒットはやはりアニメ主題歌だったりするんですが)。音楽性も90年代に入って以降はセルフプロデュースでお洒落なワールドミュージックやるようになって、その後は和製エンヤな癒し系に転向していくので、ご本人がミュージシャンの方向性としてそっち方面に向かうことを回避したかったのかな、という印象。

とは言えこのようにサブカル界の歌姫になり得た初期の遊佐未森のコンセプトは、その後は菅野よう子プロデュースの坂本真綾を始めとするアイドル声優や、石川智晶、志方あきこなどに着実に受け継がれてると言っていいんじゃないでしょうか。サブカル音楽と言ってもアニメだけでなく、先述の渋谷系とかも該当するのでひとくくりには出来ませんが、それら踏まえても遊佐坊はもっと評価されるべきなんだぞ、というわけです。

――毎度のことながら全然アルバムレビューになってない、手前勝手な妄想を垂れ流す文章になってしまいました。 
えー、では作品そのものの紹介を……とは言っても、音楽的には前作「瞳水晶」から大きな変化はないかなって感じ。一応、先述の通り日清カップヌードルのCMソングとなった収録曲、後にシングルカットされた「地図をください」がブレイクのきっかけとなり、このアルバムもスマッシュヒットして遊佐未森の名を世間に知らしめた名実共に代表作、なんですがデビュー作で様々な方向性を模索していた「瞳水晶」のバラエティに富んだ作風に比べると、全体のまとまりはあるんですが少し勢いに欠けるかなあ、という印象は否めず。
しかし「瞳水晶」での成田忍の一人相撲状態なオーバープロデュースに比べると、個々の楽曲の完成度は確実にブラッシュアップされています。
ヨーロッパの田舎風でまったりとした光景が浮かぶような、それでいてポップで耳障りのいいデジタルサウンド(―初期の坂本真綾の諸作は菅野先生、絶対この頃の遊佐未森を参考にしてますよね)に、変則的で自由すぎるメロディ、和製ケイト・ブッシュなキュートで伸び伸びとした遊佐坊のボーカルが一体となってひとつの堅牢な世界観を作り上げている。これはもう成田忍からバトンを受け継いだ外間隆史の戦略勝ち。バックのミュージシャンも青山純、元レベッカの古賀森男、ヤプーズの中原信雄、斉藤ネコ、などなど豪華な面子を従え、エバーグリーンなポップスの名盤としても、優秀録音盤としても(リマスターの必要がないくらい音質が良くて驚きます。この時期のソニー系の良さ)これ以上ない仕上がりなのでは……って、結局褒めてますね。

個人的お気に入りは、豪快かつ躍動感に溢れたアイリッシュプログレサウンド(何だそれ)が爽快な「風の吹く丘」、青山純のもはや人間辞めてる領域の変態ドラムプレイが楽しめる(素人耳にもすげえってのが分かります)「星屑の停留所」、音楽の教科書に載ってそうな古き良き童謡風で声楽出身ボーカリストの本領発揮な「川」、「ソラミミ楽団」と掲げたのも頷ける賑やかで弾けるようにポップな(しかしメロディはかなり難解)「地図をください」あたり。
音響的には前作の方が無茶苦茶な曲が多かったんであれはあれで面白味があったけど、ポップスとしてしっかり作り込まれてるのは明らかにこっち。楽曲面で参考にしていたのは、間違いなくケイト・ブッシュでしょうね。そもそもタイトルが「空耳の丘」(=「嵐が丘」)という時点で狙ってる。コクトーツインズあたりからの影響も少し入ってるかな。

改めてサブカル史的にも、日本の音楽史的にもかなり重要な一枚な気が(自分は)してるのですが、音楽クラスタ界隈でも今日遊佐未森を語る人って殆ど居なくて(―新居昭乃とか梶浦由記とかの論評・レビューは結構見る)、ちょっと寂しいなあと思ったり思わなかったり。
とある音楽雑誌で「ハルモニオデオン」が山下達郎やムーンライダーズなどのアルバムと並んで、時代を変えたエポックメイキング的な作品として取り上げられていたらしいですが(http://dic.nicovideo.jp/a/%E9%81%8A%E4%BD%90%E6%9C%AA%E6%A3%AE 参照)その割にはどうにも支持層が見えないなあ、というのが正直なところ。多分、自分を含め坂本真綾とか新居昭乃とか好きな人間が聴いてるんでしょうが……うーんもしかして相当、過小評価されてるシンガーなのでは、遊佐未森って。坂本真綾とか新居昭乃とか、菅野よう子とか梶浦由記とかの音楽が好きな人は絶対ハマると思うんだけどな。興味を抱いた方は是非。

(そんなことを言いつつ、個人的なお気に入りは今作含めた「空耳三部作」じゃなく、「momoism」('93)と「アカシア」('96)なんですが、それは別の機会に)

≪9/10点≫

M1,M12.【作曲/編曲:外間隆史】
M2~M4.【作詞/作曲/編曲:外間隆史】
M5,M7,M8,M11.【作詞:工藤順子/作曲/編曲:外間隆史】
M6.【作詞/作曲:遊佐未森/編曲:外間隆史】
M9.【作詞:工藤順子/作曲:成田忍/編曲:外間隆史】
M10.【作詞/作曲:太田裕美/編曲:外間隆史】