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Dancin' In The Light - 1989.3.21/38位/0.8万枚
【収録曲】
01.Libra
02.生まれたままの風
03.Contrastのすきまで
04.Hillsideの星空
05.Marvy Lady
06.Crazy Thing
07.ふたりぶんの背景画
08.海の足跡
09.淡い紫のブライトライツ
10.Dancin' In The Light

89年3月発売、河合その子6枚目のオリジナルアルバム。87年の「Rouge et Bleu」でそれまでのフレンチアイドル路線に終止符を打ち、同年8月発売のおニャン子クラブのラストアルバム「Circle」に卒業生によるオムニバス作品のうちの一曲として、自身が初めて作曲を手掛けた「プリズム」が収録されたのを契機に(――これはシングルで切っておくべきだったと思う)、翌年の「Colors」から後藤次利のサウンドプロデュースを離れ、いよいよ本格志向のミュージシャンとして方向転換を図る。いつまでも自身をアイドルとして扱うメディアに見切りを付けテレビ出演を拒否、海外に渡ってボイスレコーディングと作曲の勉強を重ねて更に実力を磨き、今作ではその成果として全10曲中4曲が本人による自作曲である。そしてそれ以外は現地のミュージシャンによるブラックコンテンポラリーやAOR調の楽曲で構成され、こちらも新境地。
彼女のボーカルはもはや完全にアイドル色を脱していて、すでに高い歌唱能力を披露していた「Rouge et Bleu」と聴き比べても同一人物とは思えぬ変化を遂げている。割と進行や展開が単純で歌謡的な彼女の曲と、クールで渋い外人作家による曲とが若干齟齬をきたしていて、アルバム一枚としてのまとまりには欠けている印象ではあるが、各楽曲の完成度は高く、意欲作であるのは確か。これが新進気鋭の美人シンガーソングライターのデビューアルバム、だったら良かったのにと思う。それくらい元・おニャン子の影も形もなければ、アイドルとしての媚びも全くない作品。

〇「Libra」
――歌い出しのえらい低い歌声に一瞬、中森明菜かよと驚かされる、オープニングにしてかつてのぶりっ子アイドルのイメージを自らぶち壊す傑作ナンバー。不穏なストリングスの音色が絡むシリアスなアレンジを背負いながら、男でもなかなか出ないぞと言う程の低いキーで、情感込めまくりに揺らいだ艶やかな歌声を聴かせます。サビの突き抜けるようなファルセットも更に強靭に更に伸びやかに、美しい翳りを孕んだメロディも素晴らしく、まさにアーティスト修行の成果が如実に表れており、河合その子のボーカリスト・作曲家としてのポテンシャルの高さはこれを聴けば一発で分かる、という感じ。
〇「生まれたままの風」
――荘厳なピアノイントロで曲全体を挟みこむような構成のポップナンバー。文句なしに名曲です。一度聴いただけで頭の中をぐるぐると駆け巡るようにキャッチの強い美しい旋律、爽快かつ自然体で伸びやかな空気感は、90年代に一世を風靡した良質なガールポップの先駆けと言える。「Libra」とは打って変わって、情に溺れ切らずに乾いて洗練された歌声には坂井泉水や今井美樹を彷彿とさせるものがあるかな。ちなみにこの曲、前年のコンサートで初披露された当時は「Noëlの為の赤いヒール」というタイトルで、歌詞が違った。もっと遡ると「MY JETTA」という曲だったらしく(――由来は当時の彼女の愛車、フォルクスワーゲン・ジェッタ)音源化にあたりこのタイトル・歌詞に。
〇「Contrastのすきまで」
――オープニングから連続二段構えで自作曲を繰り出して、ここからは外人作家によるブラコン・AOR調の楽曲が続く。ここでは楽曲そのものより、彼女の高度な歌唱表現を楽しむべきかもしれない。この曲は難度の高いメロディと変則的な構成が実に洋楽的で、感情を押さえ込んでジャズシンガーのような繊細なボーカルアプローチが魅力。イージーリスニングじゃないけど、さらっと聴き流してリラックス効果を与えるような曲。間奏に差し込まれた本人による英語のチャットもいい感じ。
〇「Hillsideの星空」
――重厚なバックトラックが黒っぽいイメージを想起させるメロウなソウルバラード。すんごい名曲です。彼女の声質は上品でしっとりとした翳りがあって、陽性で乾いたブラコンサウンドには少し合ってない印象も否めないのだが、個人的にはブルージーなメロディがツボなので無問題です――というのは、あくまで音源の話。コンサートでは中森明菜を凌駕せんという迫力の重低音ボイスで披露(――平原綾香を彷彿とさせる感じでした)、妖しい薄霧が立ち込めているような空気感がこれ以上ないほど秀逸で、それ聴いた後だとCD音源の歌唱ではちょっと物足りない。それにしても「会員ナンバー12番、かぁーいそぉーこです(はあと)」なんて言ってたあなた様はどこへ行ったんですか、って感じ。そらファンも逃げるわ。
〇「Marvy Lady」
――カギカッコ付きのアメリカン、といった感じでハイテンションな王道ブラコンサウンドを展開する曲。言われなきゃ河合その子の曲だって分かりません、しかし意識的に弾けたボーカルアプローチを試みて立派に歌い倒しているので良しとしましょう。
〇「Crazy Thing」
――楽曲は「Marvy Lady」と同じ路線、こちらは凄みと迫力を備えた低音を駆使して歌いこなしているが、しかしバックのファンキーなコーラス隊と張り合うには声質の齟齬が生じているような気もしまする。
〇「ふたりぶんの背景画」
――がちゃがちゃとカオスに混じり合った硬質なアレンジが印象的。ボーカルはまた趣向を変えて、少し投げやり気味に地声で歌い通す。低音部のビブラートの美しさには定評がある(――と言うことに自分の中ではなってる)その子さんのボーカルを存分に堪能出来ます。
恐らくアイドル時代の和製フレンチ路線のイメージを削ぎ落すためにトライしたと思われる、これらのファンキーなブラコン・AOR調の楽曲群が彼女に合ってるか合ってないかと言われれば、まあ声質的には合ってないのだろうが、これはこれでまた違った質感の歌声が楽しめるので、個人的にはアリ。歌声に押しつけがましい余分な自意識が滲み出ない人なので、楽曲や詩作の良さがダイレクトにリスナーへ伝わってくるのが強みと言える。
〇「海の足跡」
――そんなこんなでいきなり雰囲気がガラリと変わる自作曲ターンに再び突入。作曲だけでなく、作詞と伴奏のピアノアレンジも本人によるこの曲は美しい静寂を湛えたピアノバラード。涙腺を刺激するようなメロディの素晴らしさはもちろん、静かな海辺を舞台に物想いに耽るヒロインを描いた詩作も良くって、作詞の才能もあるだなんて素敵……と惚れ惚れします。穏やかで優しい表情の歌声とピアノ一本のアレンジ、ちょっとKiroro風――?なんて、思ったり言ったりしたらファンに怒られそうですね。大体こちらの方が10年近く先なわけですし。でもそんな感じで、シンプルなメロディとアレンジだからこそ、詩の世界と彼女の美しい歌声がすっと心に染みる名曲。
〇「淡い紫のブライトライツ」※淡(うす)い、と読む
――これも「海の足跡」と同じくシンプルなバラードだけども、イメージが被るようなことはなく独立した名曲として仕上げるソングライティング手腕は見事としか言いようがない。ピアノを主体とした華やかなアレンジと、フェミニンで上品かつ素朴なメロディは、今井美樹のアルバムに入っていても何ら違和感が無さそうな感じ。この曲を聴くと彼女が上田知華(=今井美樹)や竹内まりやのように、女性受けする優秀なシンガーソングライターとして活躍するビジョンがくっきり見えてくるのですが……泣いてない。
〇「Dancin' In The Light」
――エンディングを飾るのはポップで可愛らしいタイトルナンバー。キャッチーでノリの良いメロディに伸びやかな歌声、今井美樹「彼女とTIP ON DUO」などを彷彿とさせる、化粧品のCMソングに起用されればヒット間違いなしといった感じの佳曲。それにしても彼女はボーカルの振り幅が曲ごとにいちいち大きくて、一体どれがニュートラルなのか分かりません。良く言えば表現力が豊か、悪く言えば没個性、といった感じで皮肉なことにそれも敗因のひとつであるような気がします。

おニャン子クラブ会員番号12番としてデビューして、フレンチロリータ路線のアイドルとして巣立ち、アーティストとしての自我に目覚め自身で作曲まで手掛けるようになった本作まで、僅か4年足らずで随分と遠い所まで来てしまった印象だが、彼女の今後の更なる躍進と進化を感じさせる意欲作に仕上がっていると思える――少なくとも作品「だけ」を見るならですが。実際の彼女は翌年、今度は全自作曲のアルバム「Replica」を発表して引退してしまうため、結果的には宙ぶらりんの作品になってしまった感も否めず。
だが、自作曲のクオリティの高さはもちろん、海外のミュージシャンとのコラボレーションによる精鋭的な楽曲群の素晴らしさは、彼女の実力と併せて元・おニャン子という色眼鏡をなしに正当に評価されるべきであると思う。

≪8/10点≫

M1,M2.【作詞:谷穂ちろる/作曲:河合その子/編曲:Todd Yvega】
M3.【作詞:森田由美/作曲:A.e g. Bella/編曲:Todd Yvega】
M4.【作詞:森田由美/作曲:Jay Curiale・Beckie Foster・Austin Roberts/編曲:Todd Yvega】
M5,M6.【作詞:谷穂ちろる/作曲:Paul Garvitz/編曲:Todd Yvega】
M7.【作詞:森田由美/作曲:Paul Garvitz/編曲:Todd Yvega】
M8.【作詞/作曲/編曲:河合その子】
M9.【作詞:あさくらせいら/作曲:河合その子/編曲:Todd Yvega】
M10.【作詞:森田由美/作曲:Marcus Ingman・Anne Hazel/編曲:Todd Yvega】