akinarojo
Rojo -Tierra- - 2015.1.21/8位/2.5万枚

我らが明菜さまが4年半ぶりに帰って参りました、シングルCDという媒体では09年の「DIVA Single Version」以来約5年半ぶり、通算48枚目のシングルとなった今作。まず言っておきたいのは明菜さまの休養していた4年半の間、あの手この手といい加減な飛ばし記事を大量生産していたマスコミ各社は逝ってよし。んでもってこの期に及んでまで「まだ病んでる」だの「声が出てない」だのと、何がなんでも中森明菜を終わった歌手にしたいらしい装いファンとマスコミ各社は、まあ頑張りなさい、と勝者の笑みを送りたい。
―っと、そんな感じで結論を先に言えば歌姫・中森明菜の復活、を確信しましたよ。復活どころではないかもしれない、ブランクを経て劣化どころか確実にパワーアップして戻って来て下さいました。今だから言えるけども、去年8月の新曲「SWEET RAIN」を聴いた段階では正直ここまでは期待していなかったというのが本心なので、いやもう喜びで笑えばいいのやら感動で泣けばいいのやら状態。取りあえず語らせて頂きます。

Rojo -Tierra- 【作詞:川江美奈子・Miran:Miran/作曲:浅倉大介/編曲:浅倉大介・鳥山雄司】
≪8/10点≫
浅倉大介という人選がファンや一般リスナーの間で発売前から話題沸騰だった復活の狼煙。サウンドに流行りのEDMのテイストを取り入れつつ、アレンジ・メロディ共にある意味では浅倉大介の芸風とも言える"どこかで聴いたことある"感漂うアッパーでエネルギッシュな仕上がり。アニソンのようだと言われれば確かにそんな感じもするし、曲だけ聴けば実に分かりやすい大衆性があって、然るべきタイミングでこうした正攻法の勝負曲で仕掛けてきたのは今回が初めてと言える。過去の「Dear Friend」「Everlasting Love」「The Heat」など、曲の良し悪しを別とした"なんじゃこりゃ"感は全くない。
とは言え、何より自分が驚いたのは明菜さまのボーカルアプローチ。これがもう、さすが中森明菜、としか言いようがない。賛否両論あった紅白での歌唱を始め、先行配信の時点でも聴いた人なら分かると思うのだが、このように音の大洪水状態なEDMサウンドと弾けたメロディの曲でありながら、明菜さまはなんとほぼファルセットで歌い通している。往年の彼女を望むリスナーなどに確実に訴求するなら、低音の迫力を生かし地声のフルパワー歌唱を披露すればいいはず。加齢で声量が衰えてそのようなボーカルアプローチが出来なくなったわけではないということは「DESTINATION」や「DIVA」を聴いた人なら、当然知っているだろう。楽曲も先述の通り、パワフルな歌唱を得意とするアニソン歌手が歌いそうなタイプの曲であるし、分かりやすさを狙うならそちらの方がある種の"安全碑"であったのは明白である。それをせずに敢えて線の細いファルセットを駆使して歌入れして、挙げ句ボーカルにエフェクトまでかけている。
これによって、例えばサビ部分の"(熱い予感)終わりじゃない~"の部分が"終わりじゃなひぃぃ…"という感じに、"あなたはもう(~ひとりじゃない)"の部分では"あなたはもほぉぅぅ…"という感じで、声が音の洪水に飲み込まれていく様にフェードアウトしていく。平歌の部分でも"永久の希望を抱いて"の部分において"抱いた(て)ぇぇ…"と(―文字じゃ分かりにくいなすみません)、それまで塊になっていた声の粒子が拡散していくように、これまた声(―だったもの)が音の渦の向こうに消えていく。楽曲後半のハイライトとも言える"赤く燃える~"の部分では、"燃える"の"る"の声が凄まじい残響を伴って音に吸い込まれている。
ここまで書けば分かるようにこれ、"復活にあたって流行りのEDMを歌い意外性を演出して若い子にも聴いてもらおー"なんて戦略をユニバーサルのスタッフは考えていたのかもしれないが、明菜さま本人にしてみれば恐らく、86年の「不思議」から「Cross My Palm」「VAMP」「Resonancia」「DIVA」と続けてきた、ボーカルとサウンドとの融合を図った実験作の一環なのでは、と。いわば2015年版「不思議」の世界である。メロディや歌詞が云々ではない、存在する、聴こえてくる、ダイレクトに脳に訴えかけてくる"音"のみで歌の世界を表現する、というあまりに早過ぎた意欲作「不思議」の挑戦は、明菜さまの中では未だ終わっていないということが分かる。

年齢的に考えればいい加減ブランドの囲いに入ってセルフパロディのループに突入してもおかしくないのに、常に試行錯誤を繰り返して進化し続け、過去の自分では成し得なかった、今の自分だからこそ歌うことの出来る、表現することの出来る世界を披露する。この曲も極端な言い方をしてしまえば、80年代の頃のボーカルスタイル―迫力の低音フルパワーで歌っていたとしたら、サウンドとの齟齬が激しくただ古臭く響いただけだったであろう。それでも今の中森明菜の表現する世界を理解出来ない人は、つべこべ言わんと過去のベストテンや夜ヒットでの歌唱映像をYouTubeで楽しんでいればいいだけの話。
正攻法でヒットチャート狙い打ちな楽曲に思えて、実は新たな表現法を模索した実験作、という今後の中森明菜も更なる進化を遂げていく、というプレゼンテーションにも感じられる、復帰第一弾のウェポンにふさわしい曲であると思う。
"Miran:Miran"名義の明菜さま本人による歌詞も、「Crazy Love」の"やがて脱ぎ去るものだけ 着込んで生きてるから"というフレーズから繋がりこの曲の"熱い予感 終わりじゃない"と歌い上げる部分に、確固たる意志が窺える…というのはさすがに深読みか。
それと"悲しみごとあずけて"が"悲しみを遠ざけて"にも聴こえるのは、狙ってるのか偶然の産物かはたまたそう聴こえているのは自分だけか。

La Vida【作詞:izumi/作曲:koshin/編曲:koshin・沖仁】
≪10/10点≫

―っとまあ、暴走気味にここまで書いておいてなんですが、今回のシングルはカップリングのこちらの方が傑作かな、と。A面が先述の通りボーカルアプローチに実験要素を盛り込みつつ、楽曲自体は実に分かりやすい大衆性を備えたエレクトロポップだったのに対し、こちらはバックがギター一本のみでほとんど明菜さまのアカペラ状態、サビでパルマが打たれることからも分かるように、サウンドは完全にフラメンコの伴奏である。でもってここで歌われる世界は、まさに明菜さまの人生そのもの、といっていい。暗い過去の面影を背負いながらも、それでも私は踊り続けるわ、という踊り子の情念という設定でカムフラージュしながらも、"砂に足を取られながらも 夢見た過去に別れ告げ 今を踊りなさい"や"眠るように生きてゆけるのなら 楽でしょう でも魂が私に歌うの"といったフレーズ群を見れば、いくら中森明菜の音楽を全く聴いたことのない人間でもこれが彼女自身を歌った曲であると分かるはず。
とは言え過去の「水に挿した花」「帰省 ~Never Forget~」「赤い花」など、中森明菜個人の人生とリンクした楽曲群と比較して違うのは、"命燃やし生きる運命 これが私よ"と暗い過去や自身の内面の不条理と向かい合った上で、それすらも私の人生であると強く前を見据えている、という点。この世界観は先述の楽曲群よりも「Sunflower」「I hope so」「Grace Rain」など数々の苦杯を喫してきた明菜さまが歌ってこその、柔らかな希望の光が降り注ぐような名曲群の系統に近いかな。
そして何より声を大にして言いたいのはですね、明菜さまのボーカルが劣化したなんて思ってる人はこの曲を聴きなさい、と。いやこれはちょっと自分でもびっくりした。この曲での明菜さまのボーカル、ぶっちゃけ10年以上前の「I hope so」の頃よりもクリアで力強いのございます。冗談抜きにもう20年近く前になる「SHAKER」や「SPOON」の頃に近い。しかもあの当時よりファルセットが安定している上に低音の力強さと美しさではキャリア史上最高と言っていいかもしれない。00年代に入ってからの明菜さまのボーカルコンディションはその時々でかなりムラがあって、特に「BEST FINGER」('06)や「バラードベスト」('07)の歌声はかなり調子が悪く、この2枚のボーカルはファンの自分が聴いても劣化と言われても仕方がなかろう、という状態であるのだが、それが08年から09年にかけてのカバーラッシュで歌い込んだのが良かったのか徐々に回復、「DIVA」('09)ではようやく完全復活…っと思った矢先の活動休止。さてそこから更に4年半のブランクで一体どうなっているのか、っと正直な所かなり不安だったのだが、紅白と「SONGS」での盤石な歌唱でほっと一安心…ではあったけども、いやはや申し訳ありません明菜さまのプロ根性を舐めておりました、まさか活動休止以前よりも絶好調のボーカルを披露してくれるとは。詩作の物語性も含めて、楽曲全体のテーマであろう"踊り子(―ステージに立つ者)"の激しい情念や悲哀を完璧に演じております。

思い返してみれば前世はスペイン人であると言ってはばからない明菜さまならではの、独特の異国情緒の風が吹き抜けるようなストイックかつ美しい楽曲は久々のお披露目なんですよね。その昔は「椿姫ジュリアーナ」やら「最後のカルメン」やら「MILONGUITA」やら色々あったけども、ここ10年は完全に音沙汰なしのジャンルであったわけで、発売前の情報から色々期待はしていたけども、これ一曲のみで4年半のブランクを完璧に取り返した上にお釣りが来るくらいの素晴らしさであります。必聴。

未だにとてつもなくブランド力のある歌手なので、今回の復帰に関しては楽曲のみならず本人を取り巻く環境なども含め色々とやかく言われるだろうけども(―すでに好き勝手言われてるけどね)、まあ理解出来ん人は一生かかっても無理だろうと芸術とは本来そういうものだし、一時に比べれば今の中森明菜の表現法を支持するリスナーも大分増えたと思うので、今後も躊躇することなく我が道を行っていただきたいです。

DVDの明菜さまはとにかく可愛かった、の一言。今年50になるとは思えんわー…休業前のパチンコのイベントに出てた時の姿はホント心配になるくらい痩せてたけども、今は心なしかふっくらして見た目も若返った(?)印象。紅白の歌前トークの明らかに挙動不審な姿は結構びっくりした方多いと思うけども、実は明菜さまって80年代の歌番組じゃんじゃん出てた頃から基本あんな感じなんですよね。トークの内容がいまいち要領得なかったり、その日によってテンションが全然違ったり、司会者と喋ってる段階でマイク持つ手ががたがた震えてたり。一流の歌手ではあっても一流のタレントにはなり切れないのは30年以上変わっておりません。ま、そういうところも明菜さまの魅力ですな。

Rojo -Tierra- (初回限定盤)(DVD付)
中森明菜
Universal Music =music=
2015-01-21