本人名義のアルバムのみ、サントラ収録音源などはいずれ。

2015/10/30 「FOLLOW ME UP」追加更新



グレープフルーツ
グレープフルーツ - 1997.4.23/76位/0.4万枚
【収録曲】1.Feel Myself / 2.I and I / 3.グレープフルーツ / 4.右ほっぺのニキビ / 5.ポケットを空にして / 6.オレンジ色とゆびきり / 7.青い瞳 (REMIX) / 8.約束はいらない / 9.MY BEST FRIEND / 10.風が吹く日 (Ma-aya Version) / 11.そのままでいいんだ
≪8/10点≫

菅野よう子プロデュースでサブカル系アイドルの新進気鋭としてデビューした坂本真綾。この時点ですでにアンビエントなヨーロピアン・サウンドという菅野よう子ここに極まれりな世界観が展開されてはいるものの、この作品の聴きどころはそうした作り込まれた隙のないサウンドではなく、歌そのものであると思う。スペクター風のサウンドに乗せ坂本真綾の全くこなれて無いふらふらなボーカルが、目には見えない明日や希望を無心に信じようと歌いあげるデビュー曲にして名曲「約束はいらない」を始めとして「Feel Myself」「ポケットを空にして」「青い瞳」など、まだ歌手と言い切るには全方位足りない未熟な、だからこそ少女の哀切やピュアネスが漂う坂本真綾のボーカルが映える傑作揃い。怖くても不安でも、ただ信じるしかない、それしかまだ今の私には出来ない、という儚く切ない世界観はここだけのもの。全体に漂う甘酸っぱさはまさにグレープフルーツ、岩里祐穂してやったりといった感じか。コンセプト勝ちと言ったらそれまでなのは確かで、「右ほっぺのニキビ」なんて秋元康でも書かないぜという思わずずっこけるような曲もあり、冷静に考えるとこの時点では遊佐未森と何が違うのかという感じもするし、そんなこんなで彼女の全ディスコグラフィを見渡すとこれだけ浮いているような印象もあるが(――80年代のアイドル歌謡マニアに受ける世界観だと思うこれは)、それはそれ。ファーストアルバムからきちんと彼女の魅力や才能を見抜いていた菅野よう子に拍手。
 
DIVE
DIVE - 1998.12.19/44位/1.3万枚
【収録曲】1.I.D. / 2.走る (Album Ver.) / 3.Baby Face / 4.月曜の朝 / 5.パイロット / 6.Heavenly Blue / 7.ピース / 8.ユッカ / 9.ねこといぬ / 10.孤独 / 11.DIVE
≪10/10点≫

ようやくここから坂本真綾のアルバムという感じで今日に繋がっていく。UK録音の影響かブリット・ポップ風のサウンドメイクを基調としていながらも、全体に漂う空気はどこまでもモノクロで薄暗く、タイトルから連想されるように深海の底から遙か上方の水面を見上げているようなイメージが浮かぶ。閉鎖的だからこそ美しく、しかし自由でもあるから切なく悲しい。生きるとはどういうことか、愛とは一体どういうものなのか、という前作から続けて聴くとあまりに唐突に感じられるような卓越した世界観。一度この世界に入り損ねると何度聴いても坂本真綾の透き通って嫌味のない歌声もあってイージーリスニング的にさらっと流れていき全く残らないだろうけども、これがハマるとなかなか抜け出せない、寧ろ何度も聴き込むうちに足を取られどんどんと沈められていくような、そんな一種の中毒性を持ったアルバムだと思う。
真夜中にひとり行くあても理由もなくひたすら彷徨い、正解などない答えをそうと分かっていながら自分に問い続けるといった自我に渦巻く「I.D.」に始まり、私たちふたりだけが住む愛と光に溢れた、あるはずもない世界を探しに行こうと歌う詩作を踏まえたタイトルが秀逸な「走る」、ダウナーで退廃的な「月曜の朝」、制限された空間の中で愛し合うふたりをテーマにしながら一方で、息苦しい社会で生きていくことへの反逆心を描いているようにも聴こえる「パイロット」(――尾崎豊「卒業」の優等生バージョンに思えるって言ったら極端でしょうか)、生意気な子供に思われても自分の存在証明をこの世に残したいという「ピース」に、皆ひとりで死んでいくのにひとりでは生きていけないと突然、中島みゆきのようなことを語り出す「ユッカ」など珠玉の名曲が並んでいるが、やはりこのアルバムの核となるのはラストの「孤独」~「DIVE」の流れだと思う。「孤独」では例えあなたが私を愛してくれなくても、私はあなたが大切だし愛し続けるだろう、という痛々しくも感じる無償の愛を歌い、しかしそこから救い出されるように「DIVE」では、あなたの心を手に入れられなかったのは私自身に嘘偽りがあったから、今はあなたの心だけでなく、私の中にもようやく真実を見つけることが出来たと幕引きする。
岩里祐穂と菅野よう子は恐らく、彼女の歌手として表現者としての成長のため、敢えてこうしたシビアな世界を提示したのではないかな。生きること、誰かを愛することの辛さ、楽しさ、悲しみ、喜びを表現出来る本物の表現者にするために、なってもらうために、という並々ならぬ気合いと入れ込みが感じられる。個人的には全くと言っていいほど文句の付けどころがない名盤。

坂本真綾 シングルコレクション プラス ハチポチ
シングルコレクション+ ハチポチ - 1999.12.16/14位/6.0万枚
【収録曲】1.約束はいらない / 2.ともだち / 3.ボクらの歴史 / 4.Gift / 5.君に会いにいこう / 6.光の中へ / 7.Light of love / 8.奇跡の海 / 9.Active Heart / 10.パイロット / 11.プラチナ / 12.24 (twenty-four) / 13.恋人について / 14.ポケットを空にして / 15.CALL YOUR NAME
≪9/10点≫

デビュー3年目でもうシンコレかよ、と思わず突っ込みそうになるがシングル曲はアルバムに回収されないものがほとんどであるためひとつの区切りとして以後「シングルコレクション~」シリーズとして続いていくセレクションアルバム第一弾。タイアップは全てアニメ主題歌である上、単純にオリアル未収録シングルA/B面をずらっと並べているだけなのだが散漫な印象はなく、寧ろ一枚のアルバムとして統一性を伴って聴こえてくるから不思議と言うか、げに恐ろしき菅野よう子のプロデュース力。で、並べて聴くと分かりやすいが菅野よう子による一連の坂本真綾プロジェクトって、何となくだが80年代アイドルのそれに近い印象がある。主役を曲ではなく素材である坂本真綾に据えて、あくまで彼女の素質に見合った楽曲をあてがう丁寧なプロデュース、という。90年代以降の「アイドル」ってどうかすると曲が、もしくはプロデューサーや作家が主役ってところにまで行き着いてしまうので、ある意味貴重。
「奇跡の海」での頼りなくも芯の強い少女を感じさせるイメージや「プラチナ」に漂う独特の浮遊感というのは、坂本真綾/菅野よう子コンビだからこそであろう。「光の中へ」「Light of love」など、自身のソングライティングの手腕を如何なく発揮している楽曲もあれど、それでもあくまで主役は坂本真綾、という絶妙なさじ加減。圧倒的な歌唱力があるタイプの歌手ではないけれども(――寧ろこの頃はちょいヘタ?)、この歌を歌うのはこの子でなくてはならない、と思わせるんだから、今となっては失われたタイプのアイドルプロデュースの見本と言える。
ちなみにデビュー曲の「約束はいらない」に関して、1stアルバムと15周年ベスト「everywhere」収録のものとは微妙に異なるリミックスバージョンで収録されており(――もしかしたらリマスタリング効果かもしれない)、自分は今作収録の音源が一番、リズムに躍動感があって好きです。

Lucy
Lucy - 2001.3.28/16位/4.3万枚
【収録曲】1.Lucy / 2.マメシバ / 3.ストロボの空 / 4.アルカロイド / 5.紅茶 / 6.木登りと赤いスカート / 7.Life is good / 8.Hunny bunny / 9.Tシャツ / 10.空気と星 / 11.Rule ~色褪せない日々 / 12.私は丘の上から花瓶を投げる
≪10/10点≫

声優業の片手間歌手から本格的にアーティスト路線を目指し始めたという感じで3枚目。よって、一枚通しで濃密な世界観を展開させるというよりは、彼女のボーカリストとして作詞家としての成長を感じられるような、開放的で明るくバラエティに富んだ一枚に仕上がっている。全体的なサウンドメイクはアコースティックギターが全面にフィーチャーされたブリット・ポップ路線で統一、前作のような浸っていて心地よい薄暗さや翳りというものは見当たらないが、山奥に流れる湧水の如く透き通って冷たいイメージを漂わせているのは、もはや坂本真綾/菅野よう子コンビの芸風、と言うべきなのかな。前作が自我に凝り固まって陰鬱でモノトーンな世界観を作り上げていたのに対し、こちらは徹底して上質なポップアルバムに着地している。やはり前作のような作風は袋小路で早晩限界が来るのが目に見えているわけだし(――あれを突き詰めるともはやただの中二病なわけで)、賢い方向転換。そういった意味でも、坂本真綾の名刺的アルバムである、と言っていい。これが気に入らなかったら彼女の他のどのアルバムを聴いてもハマることはない、と言える程に坂本真綾という歌手の魅力が凝縮された一枚であり、自分も現時点で一番再生回数が多いのはこのアルバム。
先行シングルとなった「マメシバ」は詩作のはっちゃけ具合をよそにサウンドは正統派ブリット・ポップ(――曲終盤のベースラインの変態ぶりは異常)、マーヤ嬢も自身の不安定で危うげなファルセットを逆手にとったボーカルで盤石に歌いこなしていて、「紅茶」「空気と星」のような音数の少ないスローナンバーではクールかつ憂いの漂う声質を駆使してある種の高貴さも感じさせ、一方で「アルカロイド」「木登りと赤いスカート」のような遊び心溢れるナンバーも間に差し込むことで、盤全体が単調になることなく何度聴いても楽しめるという作り。ポップで弾けた全英語詞ナンバー「Life is good」のような曲も難なく歌いこなしているあたり、彼女の目指す音楽性が垣間見える感じ。
個人的ベストは「ストロボの空」「私は丘の上から花瓶を投げる」の二曲を推す。「ストロボの空」はまだ見ぬ夢や希望に向かって走り出すことを、暗いトンネルを抜けだした直後の眩しさ=ストロボの光にかけたマーヤ嬢の詩作センスに完敗で、「私は丘の上から~」は非歌謡的で凝った楽曲構成(――なんかオアシスとかトラヴィスとか彷彿とさせるなあ)に絶妙なコーラスワークが荘厳な美しさを醸し出している名曲。
そんな感じで珠玉のポップソングのオンパレードであり名盤と呼ぶにふさわしい一枚、前作に比べて歌唱力や詩作センスは目に見えて向上しているし、ええこんな素晴らしいアルバムのどこに文句をつければいいのでしょうと、そういうわけです。

イージーリスニング
イージーリスニング - 2001.8.8/12位/3.2万枚
【収録曲】1.inori / 2.blind summer fish / 3.doreddo 39 / 4.afternoon repose / 5.bitter sweet / 6.another grey day in the big blue world / 7.birds
≪9/10点≫

企画ミニアルバム。全体に薄っすらと漂う初夏の昼下がりのごとくまったりとした空気感はまさに「イージーリスニング」と言うしかないのだが、蓋を開けてみればかなり実験要素の多い作品であることが分かる。
まずサウンドプロデュースは毎度お馴染み菅野よう子であるが、今作では「hog」という名義を用いて匿名作家に扮している。そして英語詞以外の全作詞を手掛けた坂本真綾本人によると「敢えて心に残らない詞を意識した」とのことで、要するに意図的に言語破壊を生じさせたというわけだが、それらを踏まえた上で今作の狙いを推測するなら恐らく、ボーカルコントロールの実験を試みたということなのだろう。「DIVE」「Lucy」と経て詩作センスを磨き、そして多種多様なジャンルの楽曲を歌いこなす歌唱力もデビュー時に比べれば大分向上したと言えるが今作では更に踏み込んで、いかに自分の声を上手く響かせるかという、バックトラックとのバランスやボーカルの表情の変化を非常に意識して歌っているな、という印象を受ける。全7曲それぞれで万華鏡のようにくるくるとボーカルの演じ分けを披露していて、ある意味ここでそれまでに培った「坂本真綾」というブランドや個性を、一旦全て白紙に戻す作業を行っている。
メタリックな打ち込みサウンドからボーカルがゆらりと浮かび上がってくる「inori」に始まり、流麗なファルセットを披露する「blind summer fish」に民族音楽的な「doreddo 39」での力強い歌唱、そうかと思えば英語詞の「afternoon repose」「another grey day in the big blue world」ではまるで子守唄のように声質に母性を感じさせたり(――しかしこの2曲でのボーカルは原田知世に驚くほど似てる)、「bitter sweet」では少し色気を出してみたりもしてみる。そんな感じで坂本真綾のボーカリストとしての引き出しの多さを堪能できる傑作だが、ベストトラックはやはり「愛して 愛して~強く 強く」のコールから力強く大空に飛び立っていく風景が立ち上り、カタルシス効果が生まれている「birds」かな。無力な少年少女の哀切だとか心の叫びみたいなのを歌わせると妙にハマるんだよね彼女。分厚いサウンドと対峙するには少し頼りない線の細い声質のアンバランスさが良いのだろう。

坂本真綾 シングルコレクション プラス ニコパチ
シングルコレクション+ ニコパチ - 2003.7.30/3位/6.9万枚
【収録曲】1.夜明けのオクターブ / 2.ヘミソフィア / 3.ダニエル / 4.バイク / 5.しっぽのうた / 6.指輪 -23カラット- / 7.音楽 / 8.みどりのはね / 9.シマシマ / 10.キミドリ / 11.tune the rainbow / 12.toto / 13.Here / 14.ベクトル / 15.THE GARDEN OF EVERYTHING ~電気ロケットに君をつれて~ / 16.gravity
≪9/10点≫

シンコレ第二弾―の割に元々のシングルリリースの数が少ないのでアニメのサントラなどに収録されていたものを本人名義で回収、という意味合いが強い作品。まだ十代だった「ハチポチ」の頃に比べると歌手としての詩作センスや歌唱力はもちろん、個人の坂本真綾としても凄まじく成長しているわけで、初期の頃にあったガラス細工のような繊細さと若さ故の無鉄砲さが混在していたアンバランスな魅力というものはもはや失われているが、だからこそなのか一通り聴いていくと坂本真綾vs.菅野よう子といった感じで与えられる楽曲の難易度はどんどん上がっていき、それに負けじと歌手としての引き出しがどんどん増えていく過程が分かる。
打ち込みポップスでこれぞアニソンなテンションの高さが印象的な「ヘミソフィア」や、美メロバラードの「tune the rainbow」に「約束はいらない」再びな世界観の「指輪」などの素晴らしさは言うまでもないが、個人的には「ダニエル」「バイク」「シマシマ」「gravity」などのような実験作・意欲作の面白味を推したいところ。童謡的な遊び心のある「夜明けのオクターブ」「しっぽのうた」なども聞き込むと実はトラック・メロディ・コーラスなどにかなり趣向を凝らしてあることが分かる。純粋なポップスとしての聴きやすさやキャッチの強さを求めると少し仰け反ってしまう濃さがあるものの、ここまで1stアルバムから続けて聴いていくと実に納得のいく展開。個人的ベストは不穏なストリングスの音色が刺々しい美しさを漂わせている「音楽」でしょうか、坂本真綾の金属的なファルセットが映える佳曲。どこか幻想的で現実味のない風景が広がる「みどりのはね」も凄い好き。

少年アリス
少年アリス - 2003.12.10/8位/5.1万枚
【収録曲】1.うちゅうひこうしのうた / 2.ソラヲミロ / 3.スクラップ ~別れの詩 / 4.まきばアリス! / 5.真昼が雪 / 6.KINGFISHER GIRL (THe Song of Wish You Were Here) / 7.ヒーロー / 8.夜 / 9.CALL TO ME / 10.光あれ / 11.ちびっこフォーク / 12.park amsterdam (the whole story) / 13.03 / 14.おきてがみ
≪10/10点≫

坂本真綾/菅野よう子コンビの世界はここで終了。これまで二人三脚で歩んできたふたりが辿り着いた最終地点になるわけだが――とんでもない名盤を生み出してくれましたな、という一種の歴史遺産とも言えるマーベラスな作品。楽曲の方向性は「DIVE」「Lucy」と同じく北欧の澄みきった冬空のごとく寒々しさを感じさせるアコースティックサウンドで統一されてはいるが、まだ歌謡ポップスとしての聴きやすさや湿った空気感を残していた前二作と比べると、圧倒的に乾いて重たくストイックな世界。そして少女の「ルーシー」と来たら次は少年の「アリス」なわけだが、まさに不思議の国のごとくファンタジックで、絵空事の世界がここでは展開されている。「DIVE」「Lucy」とは違って個人の坂本真綾として云々かんぬんと物語を紡ぐのではなく、ここでの彼女は完全にストーリーテラーの役割を担っており、例えるとそれぞれ独立した14の物語をひとつにまとめた短編集といったところ。曲ごとに全く異なる世界観が展開されているから当然、楽曲もコンビ集大成の総決算といった感じで多種多様であり、それを歌いこなす坂本真綾のボーカルもナレーターのごとく(――ここは声優といった方がいいのか)声質や歌唱法を巧みにシフトチェンジしてそれぞれの歌世界を演じている。
フレーズごとの整合性が滅茶苦茶で、どこかシュールな空気が漂う雰囲気はまさに夢の中な「うちゅうひこうしのうた」からして現実味の薄い宙ぶらりんな異世界へ突き飛ばされた気分になり、彼女にしては珍しく暑苦しささえ感じる同世代への応援歌「ソラヲミロ」、シチュエーション設定の巧みな岩里祐穂による詩作と、終盤へかけての変態的な転調ぶりに鳥肌な「スクラップ~別れの詩」、トラッドで洗練されたギターサウンドに恋人へ盲目的に溺れるヒロインを描いた詩作、というアンバランスさが面白い「まきばアリス!」、正義の味方にも癒やしが必要なのだと豪語する「ヒーロー」、ヨーロピアンなバンドサウンドに淫靡な夜の匂いを漂わせる「夜」、過ぎ去った全てに手を振りまだ見ぬ場所へ歩いて行こうというやはりお得意の世界観「光あれ」、定番の全英語詞ナンバー「KINGFISHER GIRL」「CALL ME」などに漂う、これまでにない重厚感や荘厳さというのはまさに円熟の極みといった感じで聴き応え抜群だし、タイトルからは想像もつかない程にメッセージ性が強くスケールの大きい世界観に驚く「ちびっこフォーク」と来て、ラストの「おきてがみ」で菅野よう子の手元を離れていく――という完璧な構成。どれもアルバム一枚通しで聴いて初めて意味を成す楽曲であるが、個人的に敢えて選ぶなら「うちゅうひこうしのうた」「まきばアリス!」「夜」「光あれ」「ちびっこフォーク」あたりが特にお気に入りで、もはや何も言うことはなくただひたすらに大の字。
「ひとりで勝手に決めてごめんなさい/だけど昨日でも明日でもなくて/今日がその時だった」と、今作の成果をもってして彼女は菅野よう子という偉大な育て親の元から巣立ち、自由で孤独な長い旅に出るのであった、めでたしめでたし。という、集大成的な作品であると同時に、彼女の次なる音楽活動への橋渡しにもなった名盤、いや違う歴史遺産。
 
夕凪LOOP
夕凪LOOP - 2005.10.26/8位/4.5万枚
【収録曲】1.Hello / 2.ハニー・カム / 3.ループ / 4.若葉 / 5.パプリカ / 6.My Favorite Books / 7.月と走りながら / 8.NO FEAR/あいすること / 9.ユニゾン / 10.冬ですか / 11.夕凪LOOP / 12.a happy ending
≪6/10点≫

菅野よう子の手元を離れて一作目。菅野よう子から離れるというのは、いずれ下さなければならない決断であったと思うし、だからこそこうしてやるああしてやる、と張り切るのも分かる。分かるけども、出来あがった作品がこれではどう評価すればいいのやら。無駄な要素を一切排した無味無臭な癒やし系ポップス、というそれ以上でもそれ以下でもない、って別に坂本真綾がそれくらい出来ることは知っております。もちろん手品師ではないので、毎回新鮮な驚きや奇を衒うような要素を放り込んでほしいとは言わんけども、結局は坂本真綾の音楽の良さというのは、菅野よう子のプロデュースに大分依存していたのかと思わず落胆してしまう気持ちは否めず。出来あがった作品がイマイチだとしても、本人に何かしらの狙いや主張があるならまだしも、様子見で無難に置きに行きました(――まあ一発目だからしゃーない)という薄っすらこなし感も漂い、嗚呼。
見方を変えれば優等生的にまとまった聴く人間を選ばない良質ポップス、と捉えることも出来なくはない。極端に不出来なわけではない、かと言ってこれはと光るものもなく――って、そういう作品が一番良くないんですよ。「Hello」「若葉」「パプリカ」あたりのどうでも良さげな感じは、聴いていて退屈を通り越しちょっと悲しくなってくるなあ。声も全体的になんか薄っぺらいんだよね――なんて、ここに来て初めての酷評モードなのだが、そこはやはり菅野よう子の教え子、「ユニゾン」に見られる一筋縄ではいかない感じだとか「夕凪LOOP」(――考えるの放棄したようなタイトルは嫌いです)のなんとも言えないほろ苦さであるとか「a happy ending」で演出されるさり気ない温もりであるだとかで、上手いこと丸めこまれた感あり。歌手としての再出発、という意味では1stの「グレープフルーツ」に近いものがあるのかもしれないですね。

30minutes night flight
30minutes night flight - 2007.3.21/12位/2.9万枚
【収録曲】1.30minute night flight / 2.ドリーミング / 3.記憶 -there's no end / 4.僕たちが恋をする理由 / 5.セツナ / 6.ユニバース / 7.30minute night flight ~sound of a new day
≪7/10点≫

企画ミニアルバム第二弾。 コンセプト云々より実験要素の強かった前作「イージーリスニング」に対し、こちらはどんとひとつテーマを掲げてそれに沿って楽曲イメージを統一させて作られた模様。「眠れない夜を過ごしたことがあるすべての人へ、30分間の夜間飛行」という、ちょっとむず痒くなるようなコピーはともかく、そんな感じの世界観で再生時間もジャスト30分、というまさしくコンセプトアルバム。着地点はまあ簡単に言えば「癒やし系」という、それ以上でもそれ以下でもないけども、ここまで最初から完璧にレールを敷いておいて上手くいかないはずがない、といった感じで派手さはないもののじわりと浸透していくような、地味に良いアルバムに仕上がっているかな。
宇宙的なイメージを想起させる打ち込みサウンドで分かりやすい高揚感を煽る表題曲「30minutes night flight」で地上を離れて、失恋の痛手を夜空の下ひとり癒やす「ドリーミング」への流れは素晴らしく、家族愛というテーマを宇宙を引き合いにして歌った(――ちょっと強引な感じがする)「記憶-there's no end」、自身がナレーターを務めたプラネタリウム企画のために書き下ろされた壮大なバラード「ユニバース」あたりが聴きどころかと。個人的に坂本真綾が単なる「癒やし系」になってしまうのは大いに解せない人間なので、ここまで小奇麗で掴み所がない仕上がりの作品はちょっとどうなの、とは思うが前作のようにテーマ不在の凡庸ポップスを歌うよりかは明確なコンセプトを打ち立てている分、風通しが良くて好印象。ただ「セツナ」だけ詩作の世界観の統率が取れていないように思えたのは自分だけ?

かぜよみ
かぜよみ - 2009.1.14/3位/5.3万枚
【収録曲】1.Vento / 2.トライアングラー / 3.風待ちジェット ~kazeyomi edition / 4.Remedy / 5.雨が降る / 6.Get No Satisfaction! / 7.蒼のエーテル / 8.失恋カフェ / 9.SONIC BOOM / 10.ピーナッツ / 11.さいごの果実 / 12.Colors / 13.カザミドリ / 14.ギター弾きになりたいな
≪8/10点≫

必殺ザ・アニソンな「トライアングラー」のヒットと前後して、気付けば邦楽界における声優ポップスの地位も大分向上し悠然とヒットチャートに居座るようになったが、結果的にこれが現時点で全オリアル中最高セールスを記録。全体的な印象は彼女の音楽にしてはと言ったら失礼かもしれないが、やけに爽やかで開放的な空気を感じる一枚。以前の作品でいうと「Lucy」が一番近いのかもしれないが、このどこまでも突き抜けていくような明るさはその比ではなく、とは言え前作「夕凪LOOP」のような右から左へといったような凡庸さはない。菅野よう子プロデュース時代にはなかった、お洒落で自然体な、全く新しい坂本真綾がここでは展開されている。いつまでも菅野よう子に甘えているわけにもかず、しかしいざ離れたはいいものの自分ひとりでは何をすればいいのか分からない、といった感じで結果的に坂本真綾の作品としてはもちろん、ポップアルバムとして見ても中途半端な仕上がりだった前作のどん詰まり感はここでなんとか振り切ることが出来た。そう考えると菅野よう子の操り人形ではない、ひとりの自立したアーティストである坂本真綾はここから始まったといえる。多彩な作家とのコラボレーションも前作とは打って変わってすっかり板についていて、自分が今やりたい音楽というものを素直に楽しみ、演じている。
「風待ちジェット」での驚くべき爽快感、静から動への躍動感が素晴らしく、またボーカリストとしての成長も感じられる「雨が降る」、アッパーな「Get No Satisfaction!」に、「思いだすなら笑ってる私だけにしてね」という歌詞に独特のセンチメンタルが湧き上がる「失恋カフェ」、透明感がありながら力強いボーカルに、斉藤ネコによる雨上がりの澄みきった空の雰囲気を音で構築したようなサウンドメイクが絡み合った名曲「さいごの果実」、透明な薄い膜で現実世界と隔てられた気分になる幻想的な「Colors」、菅野よう子時代を名残惜しむ旧来のファンへのメッセージとも取れる「カザミドリ」など、あまりにバリエーション豊かな収録楽曲に、結局あなた何がしたいの、と思えてくる部分もあるが――それも、自分に合った音楽というものを確立していくためには必要な過程であると思う。個人的には菅野よう子プロデュース時代の自分との決別と解釈出来る詩作(――アニメタイアップであることが信じられない)が感動的な「Remedy」が圧倒的名曲で、文句なしのベストトラック。黙ってても時は過ぎる、泣いても笑っても今は二度とはやって来ない、だから私は過ぎ去る全てにただ笑って手を振ろう――とありがちな世界観も、彼女が歌うからこその説得力。そんな感じで褒めまくりなのだが、ぶっちゃけ「トライアングラー」は要らなかったかなあ。ワンポイントで菅野よう子に出戻るのはアリだと思うけど、これは思い切ってカットした方が良かった気がする。曲自体も、自分としてはそんな好きではないので。

坂本真綾 15周年記念ベストアルバム everywhere(初回限定盤)(DVD付)
everywhere - 2010.3.31/3位/6.7万枚
【収録曲】<Disc 1> 1.I.D. / 2.マメシバ / 3.birds / 4.うちゅうひこうしのうた / 5.指輪 -23カラット- / 6.奇跡の海 7.ヘミソフィア / 8.紅茶 / 9.風が吹く日 / 10.GIft / 11.パイロット / 12.tune the rainbow / 13.カザミドリ / 14.約束はいらない / 15.ループ ~sunset side <Disc 2> 1.マジックナンバー <123!mix> / 2.Remedy / 3.光あれ / 4.僕たちが恋をする理由 / 5.ダニエル / 6.ユッカ 7.blind summer fish / 8.gravity / 9.NO FEAR/あいすること / 10.30minute night / 11.プラチナ / 12.Feel Myself / 13.ユニバース / 14.ポケットを空にして / 15.everywhere
≪9/10点≫

デビュー15周年にして初のベストアルバム。これまでリリースしたシングル・アルバムから本人が選んだ29曲に書き下ろしの新曲を加えた、ベストアルバムとして分かりやすくまとまった構成。
この手の作品が訴求するべきなのは、シングルもアルバムも全部持ってます聴いてますという固定ファンではなく、あのアニメ主題歌結構好きだったんだよね、坂本真綾って名前よく聞くけど実際どうなの、といったまだ見ぬライトリスナー層なのであって、だからこそあの曲がないこの曲がない、といった不満を洩らすのは間違い。とは言え本人もそのあたりをきちんと考慮しているのか、割とバランスの良い選曲で逆に驚き。
「ヘミソフィア」「マメシバ」「tune the rainbow」「プラチナ」「Gift」「指輪」あたりの、水戸黄門の印籠のごときな鉄板曲はもちろん、アルバムからも「ポケットを空にして」「I.D.」「パイロット」「ユッカ」「birds」「うちゅうひこうしのうた」「ユニバース」といった名曲がきちんと回収されていて、周りが思ってる以上にこの人は自分のことがよく分かっているなといった感じでまさにベストな仕上がり。シングルだけ並べると、本職が声優であるという都合上タイアップに縛りがあるためアニソン祭りにしかならないので大正解。
さて、こうして並べて聴くと改めて「声優」という色眼鏡を取り払って聴くべき、普遍性のあるシンガーであることが分かる。自分はアニメも見なければ当然中の人にも興味は全くない人間だけど、各所で原田知世と声質が似てると言われている、らしい、というただそれだけの理由で聴き始めたのだが、何の違和感もなくすんなりと聴くことが出来たし、気付けばアルバム全てを買い揃えるほどのファンになっていたので、女性ポップス歌手好きなら一度は聴いておいて損はないと言える――って、自分は「ハチポチ」と「イージーリスニング」が入口だったんだけども。インタビューなどで度々彼女は、声優も歌手も舞台女優も「表現の仕事」ということで、自分にとって全て同じであると発言しているようだが、これも原田知世と微妙に重なる部分があったりして。書き下ろしの自作曲「everywhere」も盤石な出来で聴きごたえあり。ちなみにデビュー曲の「約束はいらない」のバージョン違いについては「ハチポチ」の項で先述したが、「マメシバ」も「Lucy」収録バージョンの方が個人的には好きなので、そこがちょっと残念。もちろん、些細なことです。

You can’t catch me(初回限定盤)
You can't catch me - 2011.1.12/1位/3.9万枚
【収録曲】1.eternal return / 2.秘密 / 3.DOWN TOWN / 4.美しい人 / 5.キミノセイ / 6.ゼロとイチ 7.みずうみ/ 8.stand up, girls! / 9.ミライ地図 / 10.ムーンライト (または"君が眠るための音楽") / 11.手紙 / 12.トピア <SPECIAL CD "Gift" +1> 1.everywhere -opening- / 2.Gift / 3.ヘミソフィア / 4.0331medley / 5.I.D. / 6.マジックナンバー / 7.everywhere -piano & vocal-
≪7/10点≫
とうとう1位獲得、やったね。「かぜよみ」とベストアルバム「everywhere」で菅野よう子プロデュース時代の影を振り切り、歌手としてようやく独り立ちすることが出来て一段落、というわけで大人の女性シンガーの余裕と貫禄を感じられる一枚。柴田淳やスキマスイッチ、スネオヘアーに鈴木祥子、キリンジ、真心ブラザーズといった多彩なミュージシャンによって描き出される様々な世界観を一手に引き受け、シュガー・ベイブのカバーも難なくこなし、菅野よう子の元に出戻っても、かつての母と子のようなべったり感はなく、あくまで歌手と作家という絶妙に乾いた距離感を保っていて、クーピーペンシルのようにカラフルでバラエティに富んだ上質なポップアルバム。改めて坂本真綾という歌手の引きの強さには驚くし、声優歌手というフィールドで語るにはあまりにもったいないポテンシャルを秘めたアーティストである、ということが分かる良盤なのだが――これ聴いていてひとつ気付いてしまったことが。彼女って、割と器用貧乏ですね。
柴田淳とのコラボによる影響かいつもより重たい世界観の「秘密」、都会の夜を感じさせる原曲に比べ、大分ポップに振り切ったシュガー・ベイブのカバー「DOWN TOWN」、スネオヘアーによる疾走感溢れるポップロック「キミノセイ」、ノスタルジックな擬似洋楽ナンバー「stand up, girls!」、青春の恋愛のもどかしさや切なさを、今改めて再解釈してみたといった感じの「ミライ地図」、心地よい子守唄のような「ムーンライト」、過去に失った恋をふと懐かしく振り返る「トピア」など、多種多様な作家が結集して各々で盤石な世界観を築き上げているし、坂本真綾の歌唱もキャリア15年のベテランなだけあって完全に安定していて不安要素は全くなく、という感じでどれも良いんだけど――さて改めて冷静に考えるにそのどれもが、坂本真綾である必然性は果たしてどれくらいあるのかと。
要するに彼女って何でも器用に歌いこなせる分、作家に依存する部分が大きいというか、自分色に染めることが出来ないというか。集まれ――っと集めた多彩な作家をひとつの集合体に出来ずに、結果的に坂本真綾の作品と言うよりは、なんだかオムニバスアルバムのような仕上がりになってしまっている。「かぜよみ」では「カザミドリ」を中心に据えて放射状に広がっていく感があったからまだ良かったものの、今作は多角外交が仇となって、ただ単に散漫なアルバムという見方も十分に出来てしまえる。もちろん本人もある程度自覚しているか、もしくは確信犯的だからこそこのアルバムタイトルなのかもしれないが、結局のところ菅野よう子による「美しい人」が今作では頭ひとつ突き出てる部分を見るに、こうした部分が今後の活動への課題になってると言える――もちろんそうした自分の歌手としての性質を逆手に取っていくってなら話は別だが、それではやはりもったいない才能の持ち主であると思えるので、上質なポップアルバムであることは認めるけど、それ以上の何かが欲しい、と思ってしまった。

Driving in the silence(初回限定盤)(DVD付)
Driving in the silence - 2011.11.9/3位/2.2万枚
【収録曲】1.Driving in the silence / 2.Sayonara Santa / 3.Melt the snow in me / 4.homemade christmas / 5.今年いちばん / 6.たとえばリンゴが手に落ちるように 7.極夜 / 8.誓い / 9.Driving in the silence -reprise-
≪8/10点≫

企画ミニアルバム第三弾。今回のテーマはどかんと一発、冬。舞台は北欧のレンガ造りの家屋、シチュエーションは暖炉の前でロッキングチェアに座りまったりとコーヒーでも飲みながら窓を外をちらつく雪を眺める、というそんな感じで坂本真綾なら絶対に外さんだろう、というコンセプト勝ちな一枚。
コンパクトだが尻切れ感もなく、冬の夜明けを感じさせる「Driving in the silence」でアルバムの世界へ引きずり込まれて、続く「Sayonara Santa」は大人になることの切なさを、サンタを引き合いに描いた詩作の世界観は素晴らしいし、丁寧な歌唱と上品なバンドサウンドもあって素直に感動出来る。全英語詞「Melt the snow in me」は空から舞い降りた雪が、地面で溶けて水になっていく瞬間を切り取ったような美しさが漂い、「homemade christmas」は詩作のテーマにちょっと秋元康のようなあざとさを感じるが、それがさほど気にならないのは彼女の才能と言うべきだし、真冬の夜空の見上げているかのような気分にさせる「極夜」に、こんな良い曲を書けるソングライティングセンスをどこで培ったのかというほどに傑作な自作曲「誓い」などなど、真冬の凍てつく様な冷たい空気感や傍で体温を感じられるような暖かみを音で表現してみましたといった感じで、コンセプトアルバムとしては文句のつけどころがございません。ええ、確かに何も不満はないんだけど言わせて下さい。これってポップで明るい原田知世じゃないっすかあ――っと、感じたのは自分だけじゃないと思いたいです。
声質が元々替え玉録音可能なんじゃというほど似てるというのもあるが(――英詞曲では特に顕著)、テーマもズバリ北欧の冬、って持ってこられると原田知世経由で聴き始めた自分としては「eyja」あたりと全体的なイメージが妙に被って聴こえるといいますか。当人同士にしてみれば迷惑以外の何物でもない比較だけども、冗談抜きに「Driving in the silence」「Melt the snow in me」とかはまんま知世さんのアルバムに入っていてもおかしくない曲でちょっと戸惑う部分がある。このアルバム好きっていう人はなかなか機会はないだろうが原田知世の「eyja」を一回聴いてみてほしい、ホントに。逆に原田知世ファンもこのアルバムを聴いてみてほしい。声が似てるってだけで音楽性はあまり共通点のないふたりなんだけども、思わぬところで重なりましたな。 
 
シングルコレクション+ミツバチ
シングルコレクション+ ミツバチ - 2012.11.14/9位/2.9万枚
【収録曲】1.ループ / 2.マジックナンバー / 3.DOWN TOWN / 4.トライアングラー / 5.さいごの果実 / 6.スピカ 7.action! / 8.やさしさに包まれたなら / 9.雨が降る / 10.Buddy / 11.Private Sky / 12.風待ちジェット ~mitsubachi edition / 13.モアザンワーズ / 14.おかえりなさい / 15.プラリネ / 16.エイプリルフール feat.坂本真綾 / 17.猫背
≪8/10点≫

シンコレ第三弾。「ハチポチ」「ニコパチ」に比べると純粋なシングルコレクション、といった意味合いが強くなった今作。菅野よう子の手元を離れて以降のシングル曲がずらっと並んでいて、「ニコパチ」「少年アリス」以降の坂本真綾の歳時記といった仕上がり。果たしてこれをポップスと呼んでいいものか、といった菅野よう子ワールド炸裂な楽曲も混ざっていた「ニコパチ」に比べると、全体を通して適度にキャッチーで聴きやすい良質ポップスで占められていて「ハチポチ」の頃に先祖返りしたような印象も受けるが「マジックナンバー」や「トライアングラー」のような、テンション最好調のアニソンそのものなポップナンバーもあれば、自分に合った音楽を見定めた結果辿り着いた「さいごの果実」「雨が降る」といった新境地の名曲に、シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」に「やさしさに包まれたなら」カバーと、その縁でユーミンに書き下ろしてもらった「おかえりなさい」(――冗談抜きに知世さん意識してるのかと)など、並べてみるととても声優のシングルコレクションとは思えぬ濃さは「ニコパチ」に負けず劣らず。
とは言え、その中においてひときわ異彩を放ち輝いているのが案の定と言うべきか岩里祐穂/菅野よう子という鉄壁コンビによる「モアザンワーズ」というのはもう、どうしてくれようか。曲調や詩作の世界観を選ばぬ坂本真綾という歌手の柔軟さ故の弱点を逆手にとって美点に変えてしまうのは、やっぱり菅野よう子なんやねえ、と思わず遠い目になるが、ぐうの音も出ない名曲でございます完敗、大の字。ただ以前に比べてシングルのディスコグラフィが行き当たりばったりというか前後に繋がりがないというか、こればかりはカリスマ声優であるが故のタイアップの制約などがあるから仕方ないのかな。作風は多彩になったので今後更に音楽好きや声優ファン以外のライトリスナー層にも広がっていく可能性は十分に有り得るかと。

シンガーソングライター【初回限定盤】
シンガーソングライター - 2013.3.27/6位/2.2万枚
【収録曲】1.遠く / 2.サンシャイン / 3.everywhere ~HAL mix / 4.ニコラ / 5.Ask. / 6.なりたい 7.カミナリ / 8.誓い ~ssw edition / 9.僕の半分 / 10.シンガーソングライター
≪8/10点≫

この人は作家に貰った曲を自分色に染められないんだー、と言ったが本人もそれを分かっていたのかなら最初から全部自分で作ってしまえと―なったのかは知らないがタイトルもズバリ「シンガーソングライター」でなんと全曲坂本真綾本人による作詞/作曲のフルアルバム、ってえええ。ちょっとこれは驚きしかない。確かにベストアルバムに書き下ろした「everywhere」や「Driving in the silence」収録の「誓い」で作曲の才能もお持ちでいらっしゃることは存じておりました、ええ。でもまさかいきなり全部自分で作ってしまうだなんて誰が想像出来ただろうか、という。知世さんだってアルバムに1、2曲あるかないかなのに――って、もはや比較対象が完全に原田知世なのは申し訳ない。
んで、肝心の中身はというととても初の全自作アルバムとは思えぬほど自然で気負いのない仕上がり。「everywhere」「誓い」も確かに小奇麗にまとまっている印象はあったが、別に今回が初めてじゃないんで、みたいな感じですでに完成し尽くされた世界。作風に関して言えば全ディスコグラフィを見渡して比べてみても圧倒的に地味だが、これこそ私に一番合ってる音楽、と本人が出した答えなのだろうな。元からある程度なんでも歌いこなせる人だけど、やはり音数の少ないミディアム/スローナンバーで輝く歌手なので、思っていた以上にセルフプロデュースが上手い人だったんだなとまたまた驚き。突出してこれはという曲はないが「遠く」「ニコラ」にある風通しの良さ、「Ask.」「カミナリ」など自分の声の特性を自覚した上での計算尽くなメロディなどは聴きごたえあり。なんとなーくこれ菅野よう子プロデュース時代のアルバムに無かったっけ、というメロディがちょこちょこ混ざるのは御愛嬌。先述の通りここですでに完成されてしまってこれ以上発展させる余地があまりなさそうなのと、綺麗にまとまり過ぎて面白味を感じられないのは確かなのだが、全体でみると洗練された良いアルバムに仕上がっているかな。

FOLLOW ME UP(初回限定盤)(DVD付)
FOLLOW ME UP - 2015.9.30/4位/1.9万枚
【収録曲】1.FOLLOW ME / 2.Be mine! / 3.さなぎ / 4.SAVED. / 5.東京寒い / 6.アルコ / 7.幸せについて私が知っている5つの方法 / 8. はじまりの海 / 9. これから / 10.Waiting for the rain / 11.ロードムービー / 12.That is To Say / 13.レプリカ / 14.かすかなメロディ / 15.アイリス
≪8/10点≫
およそ2年半のブランクを経て通算9枚目のオリジナルアルバム。「坂本真綾 コーネリアス」名義でリリースしたシングル「あなたを保つもの/まだうごく」は未収録。菅野よう子の手元を離れてから十年間、私ひとりでも立派にやっていくから安心してねと、実に様々なミュージシャンや作家とコラボして、まるで服を次々と着替えるようにその都度で歌手として全く違う一面を我々に披露してくれていた真綾さまなわけですが。その弊害と言うべきか独り立ち以降、これと掲げたテーマに沿って仕上げたアルバム――「30minute night flight」「Driving in the silence」など以外は、ことごとく幕ノ内的というか何でもありの音楽性になってしまっているけども、今回もまさにそれ。とは言え仕上がった作品を聴くに、いい加減そろそろ変革の時かもしれない、とも思えてきたりもして。
全体のカラーとしては以前の「かぜよみ」「You can't catch me」あたりに近いバリエーションに富んだ作風。モロにアニソンなテンション高めのアッパーソングもあり、もうほとんど手癖感満載な王道バラードナンバーあり、前作からの延長で本人作曲の楽曲もちょこっと間に差し込んで、気まぐれに菅野よう子の元に里帰りしてみたり、元フリッパーズギターの片割れコーネリアスやら大貫妙子やらとのコラボレーション展開してみたり、一曲一曲は完成度高くて嫌いじゃないんだけども、それら全てをぎっちり一枚のアルバムに詰め込んでしまっては、豊富なカラーバリエーション通り越して目がチカチカする状態といいますか、最後まで聞き終わった後には……で、あなた結局何がしたいわけ、と。これが「かぜよみ」の頃なら自身の音楽的な適性を見定める道程として、ある種の必然のようなものは感じられたけれども、さすがにもう菅野よう子の手元を離れてから十年が経って、親に育てられた年月よりもひとりで歩いてきた期間の方が長いのだから、そろそろ腰を据えてこれこそ坂本真綾の音楽である、ときっちり全体のカラー統一したアルバムを出してほしいかな、と。古今東西様々なカテゴリの音楽をミックスしてそれをひとつの「アニソン」というジャンルに集約する、という日本独自の市場である声優ポップス界を黎明期から支え続けてきた人材であるだけに、もうちょい出来ることあるのでは、と。
今回のアルバムだと、懐かしのユーロビート風な「幸せについて私が知っている5つの方法」、かの香織の洒落たメロディとコーラスワークが印象的な「ロードムービー」、ファンシーな雰囲気が新境地の「かすかなメロディ」、大貫妙子に曲を発注してもはや確信犯的に原田知世風な「はじまりの海」、このあたりのちょいとノスタルジックでヨーロピアンな、原田知世の向こうを張るような路線で固めてくれたら自分的には間違いなく名盤認定だったのですが、間に差し込まれる「さなぎ」「アルコ」「Waiting for the rain」「レプリカ」あたりの、いつものあれ系これ系ねという80点主義の曲でちょくちょく興を削がれると言いますか、それでもって曲の繋ぎ方もいちいち雑だし(――これご本人がやったならあんまりにセンスがないと言わざるを得ない)、トータルで見ると前作の地味極まりなかった「シンガーソングライター」の方がまだ面白いアルバムだったかも、なんて思えてくる。これ多分、20周年記念盤ということでシングル・既出曲偏重なのがいけないんだろうけど、もっと根本的な部分を今後変えていく必要もあるんじゃないかなと。様々なジャンル・作風の楽曲を器用に歌いこなせるだけの実力を備えているだけに、このままだと本当に勿体ないです。今回は無難に置きにいっただけと解釈して、次のアルバムに期待。限りなく7点に近いけども、曲単位では結構好きな曲あるので、8点で。
――あ、それとなんだか年月経るごとに菅野よう子楽曲との齟齬が生じてきているような気がしまする。今までは伝家の宝刀的な存在の菅野よう子御大だったけども、いよいよ本格的に親離れ子離れの時期かもしれませんね。